ピアノ伴奏者や料理人、美容師など手指を頻繁に使う職業で「ばね指」はよく知られていますが、近年ではパソコンやスマートフォンの普及により、一般の人々にも身近な病気になりつつあります。ばね指は日常診療でもよく遭遇する疾患で、一度悪化すると非常に厄介です。しかし、正しい知識と適切な対処法を持つことで症状の悪化を防ぐことができます。
そして、手指の筋骨格系組織の運動に関与する重要なミネラルであるマグネシウムが、ばね指の予防に役立つ可能性があります。マグネシウムは、日常生活の中で意識的に摂取することが重要ですが、積極的に摂取している人は少なく、その不足が様々な病気の原因となりうることが問題視されています。
今回は、ばね指の予防におけるマグネシウム製品の重要性について詳しく説明します。
ばね指とは?
ばね指とは、指の腱鞘炎の一種です。指の腱が炎症を起こし、動かすたびに引っ掛かるような感覚が生じるため、「ばね指」と呼ばれます。腱が腱鞘内をスムーズに動かなくなることで、指を曲げたり伸ばしたりする際に困難を感じるようになります。
ばね指の原因
ばね指の主な原因は、指を過度に使用することです。具体的には、以下のような原因があります。
- パソコンやスマートフォンの頻繁な使用
- ピアノの演奏や楽器の演奏
- ゴルフやテニスなどのスポーツ
- 料理で包丁を多用すること
これらの動作を繰り返すことで、指の腱鞘に負荷がかかり、炎症が引き起こされます。炎症が続くと、腱鞘が肥厚し、腱が腫れて動かしにくくなるのです。
過去には職人や演奏者などに多い症状でしたが、現代ではスマホやPCの作業の影響で指が動かしにくいと感じる人も増えており、現代的な症状の一つになりつつあります。
ばね指のメカニズム
指の手の平側には「屈筋腱」という組織があり、この屈筋腱は指に沿って先端まで伸びています。屈筋腱は靭帯性腱鞘というトンネルの中を通っており、通常はスムーズに移動します。しかし、炎症が起こると腱が腫れ、腱鞘内をスムーズに移動できなくなります。
指を曲げた状態から伸ばそうとすると、腫れた部分が腱鞘に引っ掛かり、伸ばしにくくなります。無理に伸ばそうとすると「カクン」とバネのような動きをするため、「ばね指」と呼ばれます。
ばね指の症状
ばね指の典型的な症状には以下のものがあります。
- 指の付け根を押すと痛みがある
- 指を曲げたり伸ばしたりする際に引っ掛かりを感じる
- 起床時に指がスムーズに動かず、曲がったまま伸ばしにくい
症状が軽い場合は、患部を休めることで痛みや違和感が和らぐことがあります。しかし、明らかに指がスムーズに動かない場合は、ばね指を疑うべきです。
ばね指の治療法
保存療法
ばね指の治療は、まず保存療法(※)から始めることが一般的です。保存療法には以下の方法があります。
※保存療法とは安静、内服、外用(湿布や塗り薬)、ステロイド注射など、初期の治療のことを言います。
- 安静にする:指をできるだけ動かさないようにし、休ませることが重要です。
- サポーターやテーピング:関節を固定することで、腱への負荷を軽減します。
- 痛み止めの服用:痛みを和らげるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを使用します。
- 超音波や電気刺激療法:物理療法として超音波や電気刺激を用いて炎症を軽減します。
- 腱鞘内ステロイド注射
症状が強い場合や保存療法で改善しない場合には、腱鞘内にステロイド剤と麻酔薬を注射する「腱鞘内ステロイド注射」が行われることがあります。これは炎症を直接抑える効果がありますが、繰り返し使用するのは身体に負担がかかるため、継続するのはおすすめではありません。
手術療法
保存療法やステロイド注射で改善しない場合は、手術が検討されます。手術は、腱鞘を切開して腱の通り道を広げる方法が一般的です。手術後はリハビリを行い、指の機能を回復させます。
マグネシウムとばね指の関係
マグネシウムは、体内で800以上の体内の化学反応に関与する重要なミネラルです。特に、筋肉の収縮と弛緩、神経伝達、骨の健康において重要な役割を果たします。手指の筋骨格系組織の運動にも深く関与しているため、マグネシウムの不足はばね指の発症に影響を与える可能性があります。
マグネシウムが不足すると、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 筋肉の痙攣:マグネシウムは筋肉の正常な収縮と弛緩に必要です。不足すると筋肉が痙攣しやすくなります。
- 炎症の増加:マグネシウムは炎症を抑える作用があります。不足すると炎症が増加し、腱鞘炎のリスクが高まります。
- 疲労感:エネルギー生成に関与するため、不足すると疲れやすくなります。
下記ではマグネシウム不足をセルフチェックできます。ばね指が気になるだけでなく。セルフチェックでもマグネシウム不足が見つかった場合には、マグネシウムの摂取を意識することがばね指改善につながるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。
ばね指に効果的なマグネシウムの摂取方法
マグネシウムは、食事やサプリメントから摂取することができます。
マグネシウムを食品から摂取する
マグネシウムを豊富に含む食品には下記のようなものがあります。
- 緑黄色野菜(ほうれん草、ケールなど)
- ナッツ類(アーモンド、カシューナッツなど)
- 種子類(かぼちゃの種、ひまわりの種など)
- 全粒穀物(オートミール、玄米など)
また、下記の記事ではマグネシウムを豊富に含む食品をランキングで調べています。こちらでは実際の食事とマグネシウムが豊富な食品を使った食事での比較もおこなっていますので、ぜひ併せてご参照ください。
マグネシウムが豊富な食べ物ランキング!実際の食事で比較してみた!マグネシウムをサプリメントから摂取する場合
マグネシウムサプリメントは、食事で十分に摂取できない場合の補助として利用されます。成人の場合1日あたり350 mg以下の摂取が推奨されていますが、厚生労働省のリサーチだと日本人の平均は60-70%しか摂取できてないそう…
マグネシウムは現代の食事ではなかなか充分に摂取できない栄養素なのです。
マグネシウムサプリメントには、錠剤、カプセル、粉末、リキッドなど様々な形態がありますが、日本ではまだマグネシウム製品が少なく、ほとんどが海外製品となっています。
また、マグネシウムは細胞に吸収されにくい成分としても有名です。酸化マグネシウムなどを使って便秘薬を目にしたことがあるかと思いますが、それはマグネシウムが細胞に届かず腸に流れるため、腸で便の水分を調整することができる仕組みを利用しているのです。
サプリメントでもなかなか吸収されにくいマグネシウム。でも、マグネシウムの種類によっては吸収されやすかったり、さまざまな異なる効果を発揮したりします。例えば、塩化マグネシウムは比較的体内で吸収されやすいと言われていますし、最新の形状のリポソーム化マグネシウムは細胞にくっつくことで消化経路を通らず細胞に届くことが期待されています。
下記ではマグネシウムの種類によって詳しくご紹介しているので、自分自身にあったマグネシウムを見つけて見てください。
【マグネシウムの種類】サプリで見かける10種類の効果と特徴マグネシウムを経皮から摂取する場合
実は、体内で吸収されにくいと言われるマグネシウム、経皮吸収に向いていると言われています。そのため、昔から湯舟に入れて使うエプソムソルトなどがさまざまなお悩みに使われてきました。
エプソムソルトとは、マグネシウムが含まれる入浴剤のひとつで、肌や筋肉のケアなどに用いられています。
また、最近ではマグネシウムクリームやバームなど、お風呂に入らなくても使えるマグネシウム製品が増えてきました。
特にばね指など、部分的なお悩みがある場合には、気軽に試せる経皮吸収もぜひ試して見てください。
ただし、ばね指など、すでにお悩みがある場合は、その場所に炎症が起こっているということになります。そのため、製品ができるだけ身体にやさしく負担のかからないものを選ぶようにしましょう。
下記ではマグネシウムの肌への影響について詳しくまとめています。ぜひ合わせてご参照ください。
エプソムソルトの効果と活用方法を徹底解説!ばね指予防のための生活習慣の見直し
マグネシウムは過度なストレスや生活習慣の乱れで、その多くが消耗されてしまいます。ばね指がつらいという方は、下記に生活習慣の見直しも取り入れてみてください。
ばね指の予防には、適度な運動が効果的です。特に手指のストレッチや軽いエクササイズを日常的に行うことで、腱や筋肉の柔軟性を保ち、ばね指のリスクを軽減できます。また、全身の筋力を維持するための運動も重要です。
手指のストレッチは、ばね指の予防に効果的です。以下のようなストレッチを日常的に行いましょう
- 指をゆっくりと曲げ伸ばしする
- 手のひらを開いて指を広げる
- 手のひらを壁に押し付けて、前腕の筋肉を伸ばす
手指を使いすぎないように、定期的に休息を取ることが重要です。長時間パソコンやスマートフォンを使用する場合は、1時間に1回程度、手指を休めるための休憩を取りましょう。
まとめ
現代社会ではスマートフォンやパソコンの使用が避けられず、ばね指に悩む人が増えています。ばね指は初期のうちに適切に対処することが重要で、放置すると悪化することが多いです。私たちの体に必要なミネラルの中でも、特にマグネシウムは現代人の健康維持に欠かせない栄養素です。
マグネシウム不足を補うために、サプリメントや経皮吸収型クリームなどの製品を利用することが推奨されます。日々の食事や生活習慣を見直し、マグネシウムを適切に摂取することで、ばね指の予防に努めましょう。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。
1) 堀田 裕輔, 河野 正明, 千葉 恭平, 芝 成二郎, 津田 貴史, 沖 貞明:ばね指に対するPIP (IP) 関節固定装具による保存療法の試み. 中国・四国整形外科学会雑誌. 2020 年 32 巻 2 号 p. 253-256
https://doi.org/10.11360/jcsoa.32.253
2) Guerrera MP, Volpe SL, Mao JJ. Therapeutic uses of magnesium. American Family Physician 80:157-162, 2009.