マグネシウムは動悸や心疾患を予防する栄養素の一つとして注目されています。その理由や取り入れ方などを論文や研究内容を元にご紹介していきます。
マグネシウムとは?
マグネシウムは人体にとって必須のミネラルであり、多くの生化学的反応に関与しています。ヒトは三大栄養素と呼ばれる糖質、タンパク質、脂質や、必須ビタミン・必須ミネラルなどの補酵素と呼ばれる栄養素で作られています。
ただし、これらは、酵素の働きによって生命活動が可能になっており、ヒトの体は酵素なくしてはただの物質です。
マグネシウムはこの酵素の働きをサポートする栄養素の一種。マグネシウムが不足すると、特定の酵素の働きが低下する可能性があり、体にさまざまな影響がでることが予想されます。
以下は主な生物学的役割です。
酵素反応の補因子:
マグネシウムは、約800以上の酵素反応の補因子として機能し、エネルギー生成、DNA合成、タンパク質合成、神経伝達物質の放出などに関与しています。
骨の健康:
カルシウムとともに骨の構造を形成し、骨密度の維持に重要な役割を果たしており、マグネシウム不足は骨粗しょう症のリスクを高める可能性があります 。
神経と筋肉の機能:
マグネシウムは神経インパルスの伝達と筋肉の収縮・弛緩に必要です。不足すると、筋肉のけいれんや神経系の異常が発生することがあります 。
心血管の健康:
心拍数と血圧の調節に関与し、適切なマグネシウムレベルは不整脈の予防に役立つとされています 。
マグネシウムと動悸
マグネシウムにはさまざまな働きがあることがわかりましたが、その中には動悸や心疾患に関わるものもあります。
マグネシウムがこれらの症状と関わりがある理由を詳しくみてみましょう。
マグネシウムは電気信号の伝達をしている
マグネシウムは、心筋細胞の電位を調節する際に重要な役割を果たします。
ヒトの全ての細胞は電気のような信号を伝達しあいながら生命活動をおこなっており、電圧の変化は細胞内外のイオン(マグネシウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)の濃度に依存しています。
心筋細胞の活動電位もまた、イオンに依存していて、これらのイオンは細胞膜を通じて移動し、心筋細胞の収縮とリラックスを制御します。
マグネシウムは、特にカリウムとカルシウムの移動を調節することにより、正常な心拍リズムをサポートしているのです。
マグネシウムとその他イオンの心拍への影響
ナトリウムイオンの流入は活動電位の立ち上がりに関与し、迅速に電位の変化を引き起こします。マグネシウムは、ナトリウムチャネルの適切な機能をサポートし、過度なナトリウム流入を防ぐ役割を果たします。
カリウムイオンが適切に細胞内から外へ流出するのを助け、細胞を安静状態に戻します。また、マグネシウムはナトリウム-カリウムポンプの活動を助けます。
このポンプはATPよって得られるエネルギーを利用してナトリウムイオンとカリウムイオンを逆方向に輸送します。マグネシウムはATPの安定化に関与し、ポンプの効率的な機能をサポートします 。
カルシウムイオンの流入は筋収縮の引き金となり、特に心筋の収縮において重要です。マグネシウムは、カルシウムチャネルの機能を制御し、過剰なカルシウムの流入を防ぐことで、過度な心筋収縮を抑制します。
マグネシウムは電気的な安定性を維持し、心拍の異常なリズムや不整脈の発生を防ぐ効果を持っています。マグネシウムが不足すると、これらのイオンのバランスが崩れ、心筋の電気的活動が乱れる可能性があります。その結果、不整脈や他の心血管疾患のリスクが増加することがあります。
マグネシウムは心筋の収縮
マグネシウムは筋肉の収縮と弛緩を調節する際に、カルシウムの作用を拮抗する重要な役割を果たします。
筋収縮の過程では、カルシウムイオンが筋細胞内に流入して収縮が引き起こされます。
つまり、カルシウムは筋肉をぎゅっと収縮させる働きがあり、心筋でできている心臓もカルシウムによって収縮されるのです。ここで、マグネシウムは以下のように働きます。
カルシウムの流入抑制
マグネシウムはカルシウムチャネルをブロックすることで、細胞内への過剰なカルシウムの流入を防ぎます。これにより、筋細胞の過度な興奮を抑制し、適切な収縮と弛緩のバランスを維持するため、心臓の筋肉も過剰な収縮が抑制されるのです。
カルシウムの再取り込み
マグネシウムは、カルシウムを再取り込みする際にも重要です。細胞内の構造のひとつ、小胞体はカルシウムを貯蔵し、必要に応じて放出することで筋収縮を調節しています。
カルシウムが一度放出されたあと、筋肉の収縮活動が終わると再度小胞体に取り込まれます。
でもマグネシウムが不足すると、カルシウムの再取り込みが不十分となり、筋肉の緊張が持続する可能性があるのです。
このように、マグネシウムはカルシウムの作用を調整することで、心筋および他の筋肉の正常な機能をサポートしています。マグネシウムが不足すると、カルシウムの過剰な作用が引き起こされ、筋肉の過度な収縮や痙攣、さらには心筋の異常なリズム(不整脈)を引き起こすリスクが高まるのです。
下記では海外でも著名の医師 Peter Gliddenが、マグネシウムと高血圧に関与する動悸について話しています。
Dr. Gliddenの話を簡単に要約すると次の通り。
「血管の動脈は筋肉の動きを利用してポンプのように血液を送っている。筋肉はカルシウムで収縮し、マグネシウムで弛緩する。そのため、心臓につながる動脈もカルシウムとマグネシウムを利用して、リズムよく血液を送ることができる。でも体内のマグネシウム値が低下し、カルシウム値の割合が高くなると、血管は収縮し続けた状態となる。例えるなら水を出すホースだ。ホースから水を流しているときにホースとつまむと、水の出入り口が狭まり水が勢いよく出ようとする。血管も同じで、カルシウムによって収縮が続くと血液が勢いよく飛び出し、血圧が上昇する。」
この状態が動悸やドキドキ、息切れなどの引き金となるのです。
マグネシウムと心疾患:論文からわかる効果とは?
マグネシウムは海外では多くの研究がおこなわれているミネラルのひとつ。
動悸や不整脈、心疾患と関連するマグネシウムのリサーチを見ていきましょう。
論文①
マグネシウムと不整脈についての研究
2017年に発表されたマグネシウムと不整脈の研究についてがこちら。
この研究は、マグネシウムの補充が心不整脈の治療に及ぼす影響を評価するために行われました。
研究は、カルシウム、ナトリウム、カリウムチャネルを調節するマグネシウムの役割を中心に、心筋細胞の活動電位に対する影響を調査しました。
マグネシウムの補充により、心室性不整脈(特に心室頻拍)の発生率が低下しました。
具体的には、心室頻拍の発生率はマグネシウム補充群で5.67%、プラセボ群で15.04%となりました。
また、心房細動の発生率もマグネシウム補充群で9.72%、プラセボ群で22.37%と、マグネシウム補充群が有意に低下しています。
マグネシウム補充は、心室性および心房性不整脈の予防と治療に有効である可能性が示唆されました。
この研究は、マグネシウムが心筋細胞のイオンチャネルを調節し、不整脈の発生を抑制する役割を強調しています。
参考:Treating arrhythmias with adjunctive magnesium: identifying future research directions
論文②
マグネシウムと不整脈の臨床試験を分析・評価
2018年に発表された論文では、1986年から2017年に発表された22の臨床試験を分析し、マグネシウム補充群とプラセボ群の比較をおこなっています。
急性冠症候群後の心不整脈に対するマグネシウム補充の効果を評価しました。
研究は、1986年から2017年に発表された22の臨床試験を分析し、マグネシウム補充群とプラセボ群の比較をしました。
合計6061名(マグネシウム群2987名、プラセボ群3074名)
マグネシウム補充により、心室頻拍の発生率がマグネシウム群で5.67%、プラセボ群で15.04%と有意に低下しました。
また、心房細動の発生率もマグネシウム群で9.72%、プラセボ群で22.37%と低下しました。
全体として、心不整脈の発生率がマグネシウム群で11.88%、プラセボ群で24.24%と有意に減少しました。
マグネシウム補充は急性冠症候群後の心不整脈の発生を有意に低減させることが示されました。この研究は、心血管疾患患者に対するマグネシウム補充の重要性を強調しています。
現代人に不足しがちなマグネシウム:セルフチェックあり
マグネシウムはヒトにとってとても重要なミネラルです。
そのため血中のマグネシウム値は基本的に恒常性の働きによって一定が保たれており、血中のマグネシウムが不足すると細胞内から補われる仕組みとなっています。逆を言えば、血中のマグネシウム値を計ってもマグネシウム不足を見つけることは難しいということです。
そのため、クリニックなどでマグネシウム不足を確認するには問診表が使われます。
下記では分子栄養学などを学んだ医師監修のセルフチェックをご用意していますので、ぜひ併せてトライしてみてください。
マグネシウム不足自己診断テスト現代人の多くがマグネシウム不足だと言われている大きな理由は、食生活にあります。
昔はわかめや海藻類、玄米や麦などを食べていましたが、現代では玄米が精製されて白米に。麦も精製されて小麦粉になっています。その他砂糖などの精製された食品や添加物、農薬などはマグネシウムなどの栄養を含んでいないだけでなく、マグネシウムを消耗してしまう食べ物です。
また、慢性的な疲れやストレス、飲酒などもマグネシウムを多く消耗する要因に。慢性的なストレスとマグネシウムの関係については、下記の記事で詳しくご紹介しています。
マグネシウムで疲れをサポート?!期待できる効果や取り入れ方こうした理由から現代人はマグネシウムが不足しがちなのですね。
近年では若い世代でも動悸や不整脈を感じる人が増えており、これらは心臓に負担がかかっている証拠です。
これが長期化すると心疾患にもつながってしまう可能性があります。だからこそ、日頃からマグネシウムを意識して取り入れることが大切なのですね。
動悸をサポート!マグネシウムサプリの選び方
マグネシウムは海藻や玄米からも取り入れることができますが、これまでの食生活を一気に変えるのは大変ですよね。また近年は土壌や海水の汚染によって、原材料自体の栄養やマグネシウムも減少傾向にあると言われています。
そのため、生活習慣に合わせて、食事とは別の方法でもマグネシウムを取り入れてみるのも◎。
ただし、マグネシウムサプリを選ぶ際には注意点もあるので、ぜひ下記の3つのポイントを参考にしてみてください。
①吸収率が低い場合がある
マグネシウムはサプリの構造やマグネシウム自体の種類によって吸収されにくい場合があります。便秘薬に使われる酸化マグネシウムは細胞に吸収されにくい成分のため、腸まで届いて便を緩める働きをしています。このように、マグネシウム自体にもサプリにもさまざまな種類があるため、吸収率を意識したサプリを選ぶようにしましょう。
下記ではサプリに良く使われるマグネシウムの種類を詳しく解説しています。
【マグネシウムの種類】サプリで見かける10種類の効果と特徴②経皮からの吸収も活用
マグネシウムは経皮吸収ができるため、海外では湯舟に入れて入浴時に使用するマグネシウム製品もメジャーです。
ただし、入浴で使用するものは入浴中にしかマグネシウムを吸収できないのに対し、肌に塗るものはより長時間マグネシウムをゆっくり吸収することができると考えられており、最近ではスキンケアの一部として摂りれる人も増えています。
マグネシウムは動悸や不整脈だけでなく、肌の改善にも役立つとされているため、経皮吸収でもさまざまなメリットが期待できます。下記ではマグネシウムの肌への効果についてまとめていますので、併せてご参照ください。
マグネシウムでスキンケア!高保湿で肌バリアUP!アトピーからUVケアまで!まとめ
今回はマグネシウムと動悸や不整脈、その他心疾患についてお伝えしましたが以下がでしたでしょうか?セルフチェックでもマグネシウム不足の可能性があると診断された方は、ぜひ参考にしてみてください。