2010年代、子供だけでなく大人のADHD(注意欠陥多動性障害)が話題になり、近年ではADHDという言葉や概念も広く認識されてきました。
以前にも増してADHDの診断や治療を求める人も増えつつあるなか、ADHDの完治に至る根本的な治療法や解決策は、残念ながら確立されていません。
しかし、適切な治療や対策によって症状を緩和し、「その人らしく」生きやすい暮らしを送れるようにすることは可能です。
今回はその対策の一環として、マグネシウムの摂取が有効である点やその根拠、摂取方法について解説します。
もしあなたの身近でADHDで悩んでいる人、またはあなた自身がADHDで生きづらさを感じているのであれば、ぜひ最後までお読みいただき、マグネシウムを活用した対処法を検討してほしいと思います。
マグネシウムとADHDの関係性

マグネシウムがADHDにどのように働きかけ、その症状を緩和に寄与するのか?
まずは、マグネシウムとADHDそれぞれの基本知識を確認しておきましょう。
マグネシウムとは?
マグネシウムとは私たちが生きていくうえでなくてはならない、ミネラルの1つです。
人間の体には、約20g〜30gのマグネシウムが存在しており、そのうち約60%は骨や歯、約30%は筋肉や臓器、約10%が血液などの体液にあります。
マグネシウムと聞いてもあまりピンと来ないかもしれませんが、マグネシウムは主にエネルギー代謝や骨・筋肉、神経に関与する重要な働きをしており、マグネシウム無しでは私たちは生きられないと言っても過言ではありません。
そして、このマグネシウムがADHDの症状緩和にも有効であることが、数々の研究から明らかになってきています。
ADHDとは?
ADHDとは「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」の略語であり、日本語では「注意欠陥多動性障害」と言われています。
ちょっと思い出してみてください。
あなたの小学校時代、クラスにこんなお友達はいませんでしたか?
- 授業中、机にじっと座っていられない
- しょっちゅう宿題を忘れてしまう
- 話を聞いていると思ってたら、全然内容を覚えていない
これらはADHDに見られる特徴であり、ADHDとは「不注意」と「多動性」「衝動性」の3つの特性を併せ持つ、発達障害の一種です。
また、脳の神経機能の特性が関係していることから、「機能障害」とも捉えられます。
ADHDをはじめとする発達(機能)障害の種類

発達(機能)障害は生まれつき脳の発達に特徴があるために、考え方や感じ方、行動の仕方が他の人と少し違う状態のことを言います。
文部科学省が2022年に行った調査では、知的障害がないものの「学習面又は行動面で著しい困難を示す」小・中・高の学生の割合が7.6%(推定値)という報告がされています。
参照:「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」|文部科学省
主な発達(機能)障害の種類は以下の3つです。
発達(機能)障害の種類 | 特徴 |
---|---|
ADHD(注意欠陥多動性障害) | ・じっとしていられなかったり、集中が続かない。 ・忘れ物やミスが多い。 ・順番を待つのが苦手。 |
ASD(自閉スペクトラム症) | ・コミュニケーションが苦手で、相手の気持ちを理解するのが難しいことがある。 ・特定のものに強いこだわりを持つ。 ・感覚が過敏または鈍感。 |
LD (学習障害) | ・文字を読んだり、書いたりするのが苦手。 ・計算したり、数字を覚えるのが不得意。 ・勉強で他の子よりも遅れが目立つ。 |
発達(機能)障害は子供たちだけではなく、大人でも起こり得ます。
発達(機能)障害を抱えた子供や大人は、周囲の人から「ちょっと変わった人」と捉えられてしまうこともあり、学校や職場、日常生活でさまざまな困難や葛藤を抱えてしまう場合があります。
このような発達(機能)障害は脳の特性によるもので一生付き合っていくものであり、「完治するもの」と捉えるのは適切ではないかもしれません。
しかし、適切な治療や対応、周りのサポートを受けることで、その人の特性を生かしながら、より生き生きと豊かに暮らしていくことも可能なのです。
マグネシウム不足や栄養不足がADHDを悪化させる?

本章では、マグネシウム不足や栄養不足がADHDの症状を悪化させているのか?という疑問から、いくつか研究論文をみていきましょう。
【ADHD児童の血清と毛髪のマグネシウム濃度は低いことを示す研究】
ADHDと診断された児童はマグネシウム濃度が低いため、マグネシウム摂取で症状が緩和される可能性があるとされる研究があります。
“We also noted that magnesium levels in the hair of children diagnosed with ADHD were significantly lower than those in controls (k = 4, Hedges’ g = -0.713, 95% CI = -1.359 to -0.067, p = .031). ”
また、ADHDと診断された小児の毛髪中のマグネシウム濃度は、対照群と比較して有意に低かったそうです(k = 4, Hedges’ g = -0.713, 95% CI = -1.359 to -0.067, p = 0.031)。このメタアナリシスでは、ADHDと診断された小児は、そうでない小児に比べて血清および毛髪のマグネシウム濃度が低いことがわかりました。
引用:Significantly lower serum and hair magnesium levels in children with attention deficit hyperactivity disorder than controls: A systematic review and meta-analysis|PubMed
【健康的な食事はADHDの確率を下げることを示す研究】
この研究では、栄養バランスのいい食事が、ADHDの確率を下げること。
そして、不健康な食事はADHDの確率を上げる可能性があると示唆しています。
“Healthy” dietary pattern highly loaded with vegetables, fruits, legumes, and fish has decreased the odds of ADHD up to 37%.
In addition, adherence to “junk food” pattern containing sweetened beverages and desserts as well as “Western” dietary pattern including red meat, refined grains, processed meats, and hydrogenated fat increased it.
野菜、果物、豆類、魚を多く含む「健康的」な食事パターンは、ADHDの確率を37%減少させた。
また、加糖飲料やデザートを含む「ジャンクフード」パターンや、赤身肉、精製穀物、加工肉、水素添加脂肪を含む「西洋」食事パターンを遵守すると、ADHDの確率が上昇した。
引用:Empirically derived dietary patterns and food groups intake in relation with Attention Deficit/Hyperactivity Disorder (ADHD): A systematic review and meta-analysis|PubMed
これらの研究から推測できることは、マグネシウムや栄養の不足によってADHDが発症しやすくなり、逆に充分に補えていれば、健康状態の維持につながるということです。
マグネシウムの働きはADHDの症状緩和だけじゃない

先ほどの研究から、マグネシウムの摂取がAHDHの症状緩和に良い影響を与えていることがわかったかと思います。
マグネシウムの働きはそれだけに留まりません。
例えば、以下のような働きもしているのです。
- 歯や骨を丈夫にする
- 筋肉を弛緩・収縮を調整する
- エネルギーを作る
- 血圧を調整する
- 精神の安定を保つ
- 心臓の健康を守る
- 血糖値をコントロールする
以下の記事ではマグネシウムの働きや効果についてさらに詳しく解説しているので、少しでもマグネシウムの働きに興味をお持ちになったなった方は、こちらも合わせてお読みください。


カナダのクリニックでは、ADHDの症状対策として3つのポイントがあります。
- 食事の改善:加工食品・砂糖・カフェインを控え、マグネシウムを補給
- 睡眠の質向上:マグネシウムでリラックス&熟睡をサポート
- スクリーンタイムの管理:寝室にスマホを持ち込まず、アナログの目覚ましを活用
このように、食事改善 → 睡眠の質向上 → スクリーンタイム管理の流れで、マグネシウムを活用しながらADHDの症状管理をサポートしていました。
マグネシウムの効果的な摂取方法

では最後に、マグネシウムの摂取方法についてお伝えします。
体にも心にもプラスの働きをするマグネシウムですが、普段から必要十分な量のマグネシウムを摂れている方は、ほとんどいないと言ってもいいでしょう。
その原因として以下の3つが考えられます。
- 食の欧米化が進んだことや加工食品を利用することで、マグネシウムを豊富に含む食材を食べる機会が減っていること
- ストレスや過労でマグネシウムが失われやすくなっていること
- カフェインやアルコールの過剰摂取でマグネシウムが体外に排出されてしまうこと
上記のようなことが要因となり、現代人はマグネシウム不足に陥りやすい状態です。
それゆえ、意識してマグネシウムを日常的に摂取することが、健康を維持するうえで重要になってきます。
マグネシウムの摂取方法ですが、大きく分けると「食事」「サプリメント」「経皮吸収」の3つあります。
ベストかつ、ナチュラルな摂取方法は、食事からのマグネシウム摂取です。
マグネシウムは、海藻類、ナッツ類、豆類、魚介類、野菜などに多く含まれています。
また、精製された食品(白米や小麦粉)にはマグネシウムが少なく、精製されていない玄米や全粒粉食品のほうが、マグネシウムが豊富です。
より詳しくマグネシウムの摂取方法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

まとめ:マグネシウムの摂取はADHDの症状緩和に役立つ可能性がある
今回はマグネシウムとADHDの関係性やマグネシウムの摂取がADHDの症状緩和に役立つ可能性がある点、マグネシウムの摂取方法について解説してきました。
ただ覚えておいていただきたいのは、マグネシウムはあくまでもADHDの症状緩和に寄与する一つの手段であって、ADHDを完治させる薬のようなものではないという点です。
ADHDは「完治する」という概念ではなく、その人が持つ「特性」であるがゆえに生涯付き合っていくこととなります。
人によってはその特性が、ときに悩みや困難につながったり、生きづらさを感じる原因にもなるかもしれません。
しかし、適切な治療や対策をとったり、環境を変えたり、周りからのサポートを受けることで、その人の特性をさらに発揮し、自分の人生をより豊かに生きることも可能です。
本記事がADHDで悩まれている方や身近にADHDの方がいらっしゃる方にとって、よりよく生きるうえでの何かしらのヒントや手がかりになってくれたら、幸いです。