化学肥料は、手軽に利用できることから、国内や海外でも農作物の生産に広く利用されています。
しかし、その一方で、化学肥料は、その使い方次第でさまざまなデメリットをもたらします。
今回は化学肥料のデメリット、環境や私たちの健康に及ぼす影響、そして、化学肥料がもたらした事例を紹介していきます。
そもそも化学肥料とは?

化学肥料とは、植物や作物が成長するために必要な栄養を人工的に作った肥料のことです。
畑や田んぼにまくことで、作物が早く大きく育ち、効率的に収穫量を増やせます。
化学肥料に含まれる主な栄養素は、以下の3つの成分であり、それぞれにメリットがあります。
栄養素 | メリット | 適した野菜 |
---|---|---|
窒素 | 葉や茎を成長させる | ほうれん草やキャベツなど、葉っぱを食べる野菜 |
リン酸 | 花や実をつけやすくする | トマトやナスなど、果実を食べる野菜 |
カリウム | 根や茎を丈夫にし、病気に強くする | じゃがいもやサツマイモなど、根や茎を食べる野菜 |
日本の農業において、化学肥料はその効果や利便性から広く使用されており、世界でも農業生産性を高めるために利用されています。
しかし、化学肥料の過度な使用は環境への影響が懸念されており、持続可能な農業を目指して、各国で使用量の削減や有機肥料の導入などの取り組みが進められています。
化学肥料のデメリット5選

化学肥料の使用は農作物の成長を促進し、生産性を向上させる一方で、デメリットも指摘されています。
以下は代表的な5つのデメリットです。
- 土壌の酸性化と劣化
- 地下水や環境の汚染
- 有害な残留物の蓄積
- ミネラルの減少
- 味の劣化や味覚への影響
順番に詳しく解説していきます。
土壌の酸性化と劣化
化学肥料の中には、土を酸性化させるものがあります。
土壌が酸性化すると、カルシウムやマグネシウムといったミネラルが流れやすくなり、作物の成長に必要な栄養素が不足しやすくなります。
また、化学肥料は「作物に特定の栄養素をすぐに届ける」というメリットがありますが、長期間使用すると「土壌の微生物バランスを崩し、有機物を減少させてしまう」というデメリットも持ち合わせています。
その結果、通気性や保水性が悪くなって土壌が硬くなり、作物が育ちにくくなってしまうのです。
地下水や環境の汚染
化学肥料をまくと、余った栄養が雨で地下水や川に入り込むことがあり、飲み水の安全性に影響を与える可能性があります(特に乳幼児は要注意)。
また、リンや窒素が川や湖に流出すると、藻類の異常繁殖(アオコの発生)による水質汚染が発生する恐れがあります。
化学肥料を使用する際は、こういった環境への配慮が重要な視点となります。
有害な残留物の蓄積
一部の化学肥料には、カドミウムや鉛、ヒ素などの重金属(人体に有害な可能性がある金属)が含まれることがあり、長期間使用すると土壌に蓄積する可能性があります。
ミネラルの減少
化学肥料の過剰使用は、土壌のミネラルバランスを崩し、特にマグネシウムやカルシウムの流出を引き起こします。
特に私たちの生命維持に欠かすことのできないミネラルであるマグネシウムの減少は、私たちの健康に大きな影響を与えると言っても過言ではありません。
主に医療や環境に関する著作で知られているRoman Bystrianyk氏が、2025年1月にWebで公表した報告書によると、マグネシウム不足は現代社会に広がる「目に見えない危機」であり、土壌の劣化、加工食品、薬の使用が不足を悪化させ、健康に多大な影響を与えていると結論づけています。
参考:The Magnesium Deficiency Crisis|Roman Bystrianyk
アメリカでは約45%の人がマグネシウム不足とされ、成人の約60%が必要な摂取量を満たしていないとされています。
日本人も同様に、マグネシウム不足の状態にあると推定されます。
令和元年(2019年)に実施された国民健康・栄養調査によると、成人の1日あたりの平均摂取量は247.1mgであり、このことから推奨量(成人のマグネシウム推奨量が約270~370mg/日)を満たしていないことがわかります。
参考:令和元年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省
味の劣化や味覚への影響
本来、作物は土の中にあるさまざまな栄養素を吸収して育ちます。
しかし、化学肥料を使うと、必要な栄養素だけを速く吸収できるようになるため、土の中のミネラルや微量元素(わずかな量でも重要な栄養素)が減少します。
これにより、作物の風味や甘み、コクが弱くなり、味が薄く感じられることがあります。
また、化学肥料を使った食べ物ばかりを食べ続けると、私たちの味覚も変化し、自然な味を感じにくくなる可能性があると言われています。

化学肥料の使用で作物のミネラルや栄養素が欠乏してしまい、病害虫への免疫力が低下します。そのため、農薬や除草剤を使わざるを得なくなります。
しかし残念ながら、多くの農薬や除草剤にはミネラルキレート作用(マグネシウムやその他の微量ミネラルと結合してしまう働き)があるため、作物に含まれるミネラルがさらに減ってしまいます。
この問題の解決策の一つとして、有機野菜の摂取量を増やすことに加え、わかめなどの海藻類を積極的に取り入れることが推奨されます。
海水には常に豊富なマグネシウムが含まれているため、海藻類は良質なミネラル補給源となります。
化学肥料によるデメリットの実例(土壌の栄養枯渇)

現代では農業に化学肥料と農薬が広く使用され、土壌のミネラルが急激に減少しています。
海外のいくつかの論文では、過去100年間で多くの果物や野菜は大幅にミネラルや栄養素を失い、アメリカやイギリスでは、野菜のマグネシウム含量が80〜90%減少したとの報告もあります。
そのことは、1940年から2019年にかけてイギリスで行われた果物と野菜のミネラル含有量の変化を調査した以下の報告を見ても明らかです。

The average mineral content of calcium, magnesium, and iron in cabbage, lettuce, tomatoes, and spinach has dropped 80–90% between 1914 and 2018
参照:Challenges in the Diagnosis of Magnesium Status|PubMed
報告によれば、野菜に含まれるミネラルの長期的かつ大幅な減少が見られ、特にナトリウム(Na)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)の減少が顕著だったということです。
具体的には、1914年と2018年を比較した場合のマグネシウムの減少率は…なんと80〜90%にも達していました。
現代の商業農業は収量と利益を優先し、栄養価の低下を招いています。
さらに、肥料に含まれる有害な重金属が土壌を汚染し、作物に吸収されてしまっているのです。
そうした野菜を体に摂取しているとしたら…健康にいいわけがありません。
マグネシウム不足が引き起こす健康への影響
マグネシウム不足は全身にさまざまな影響を与え、以下のような症状を引き起こす可能性があります。
一般的な症状 | 不安感、疲労、ストレス耐性の低下、不眠、運動能力の低下 |
筋肉への影響 | こむら返り、筋肉のけいれん、顔面のひきつり |
神経系への影響 | 頭痛、手の震え、けいれん、記憶力の低下 |
心血管系への影響 | 不整脈、高血圧、冠動脈けいれん、突然死のリスク増加 |
代謝への影響 | インスリン抵抗性、脂質異常症、代謝症候群のリスク増加 |
また、妊娠中には早産、流産などの妊娠合併症のリスクが増加し、慢性的なマグネシウム不足は骨粗しょう症や喘息、慢性疲労症候群も生じる場合もあります。
まとめ:化学肥料のデメリットを知り、積極的なミネラル摂取で健康を維持しよう
今回は化学肥料のデメリットや、環境・健康に及ぼす影響、マグネシウム不足の危険性について解説してきました。
化学肥料を使わないという選択肢は現実的には難しいでしょう。
しかし、私たちには化学肥料がもたらすデメリットに対処することは可能です。
その一つがミネラル(特にマグネシウム)の摂取です。
バランスのとれた食事を心がけ、必要に応じてサプリメントを活用し、積極的にミネラルを摂取したいものですね。
